みんなの夢のふくらむ学校づくり
2004年3月6日
高松市内PTA有志によってによって、約100名の参加で高松商工会議所にて開催されました



東洋大学教授 工学博士 長澤 悟 先生

みんなの夢のふくらむ学校づくり?学校計画の潮流と課題
                                                                         長澤 悟(東洋大学工学部教授)


□ 施設・環境の持つ力
・ 教育は人なりか
・ 建築は暴力である←→建築はある目的に沿った動き・働きを秩序づける力を持つ
・ 施設・環境は学校のめざすもの−教育理念・教育目標−を体現する
    「人が建築をつくる、建築が人をつくる」(チャーチル) 
    「書斎は人が作るものだが、反対に書斎は人をつくっていく」(吉川英治)

□ 学校づくりのはじめに大切なこと
1.「観」を持つこと
   新しい子ども観
   新しい教育観
   新しい学校観
  新しい「観」に立つところに、新しい学びの場が求められ、生み出される
 
2.「学校とは」と考えること
   学校とは‥‥‥
     こころをぼろぼろにするところではなく、こころをみがくところ
     なまけるところではなく、努力するところ
     なかまはずれにするところではなく、みとめあうところ
     みんながまっているところ
     またあしたいきたくなるところ
   学校とは、生きる喜びを学ぶところです      (武藤義男 三春町元教育長)
   
   学校とは、ふるさとのよさを子どもたちに刷り込むところ
   学校とは、みんなの思い出がつまったところ
   
□ 「理念」「目標」を立てること
1. 創造的な教育観の確立と教育内容・教育方法の改善
2. 生涯学習や学校教育のための施設・設備の改善
3. 地域住民の教育参加

□ 学校づくりの3つのキーワード
1. ひらく
   時間を、集団を、教科を、教室を、学校を
2. えらぶ
   教科を、メディアを、方法を、仲間を、先生を、居場所を、学校を
3. つなぐ
   子どもと大人を、学校と地域を、学校と学校を、他の町と、他の国と 
□ 学校建築計画の7+1の課題 
1. ハイクォリティ・スクール
   高機能・多機能で柔軟性を備えた教育空間・学びの場
2. インフォメーション・スクール
   情報化の進展に対応し、情報の受発信機能を備えた学校
3. ヒューマン・スクール
   ゆとりと潤いのある豊かな生活空間‥‥子どもの目線から 
4. コミュニティ・スクール
   地域に開かれ、地域と連携する学校
5. セイフティ・スクール
   安全・安心で健康に過ごせる環境
6. ユニバーサル・スクール
   年齢・障害の別なく誰にもやさしく、皆が集まれるバリアフリーな場 
7. エコロジー・スクール
   地球環境にやさしい、自然を体感できる学校
+1 センチュリー・スクール
   変化に対応し、長寿命で皆に永く愛され、思い出を継承する学校
←皆でつくる学校
   参加による学校づくりのプロセス――夢を語り合い、思いを込めて学校をつくる 
   おらが学校=おらがつくった学校‥‥個別の解、特色ある学校づくり
   当事者意識が愛着心を育て、積極的な工夫を生み、学校・地域変革の力となる
   
□教育空間づくりの3つの目標
1. 教師の協力体制を促し、支援できる
   集団としての教師のパワーを引き出す
   弾力的な集団編成に対応する
   複数の目で子どもを見つめる
2. 多様なメディアが身近に用意できる
   主体的な学習、総合学習、個別化・個性化学習、情報活用能力
   図書・教材・機器・コンピュータ等が学習の流れの中で随時利用できる
   用意された環境は教師から子どもへのメッセージ
3. 能動的・積極的な行動を生み出せる
   教科の魅力を伝え、学習への動機付けを図る教材・作品の掲示・展示
   自らする場へ 教室からワークショップへ
   自ら学習に向かう姿勢を引き出す教室配置・構成 

□ 学校づくりはまちづくり
1. 学校は皆の共通の関心事
2. 学校については「誰でもプロ」、誰でも語ることがたくさんある
3. 語り合ったことが成果となって喜び合える
学校建築の計画課題

1.魅力的で高機能な教室
〇クラスルーム・普通教室の評価と課題−とらえ方と性格付け
@ 小学校―多様なコーナーを備えた余裕ある教育・生活空間
A 中学校―教科の魅力を伝える教育空間、クラスのまとまりをつくる生活空間(ホームベース)
B 教室配置−学年のまとまりと教科のまとまり
〇特別教室の再構成−特別教室は小宇宙
@ 実習・実験に自ら活動する楽しさを感じられる場−本物空間
A 教室相互に有機的な連続性を持たせ、利用率を高め、ゆとりあるスペースで活動
B 連続した位置にオープンスペースがあり、子どもたちを待ち受ける
C 地域利用を想定した、魅力的で快適な環境
2.多様な教育方法に対する自由度を備え、自主的な学習を支える教室まわり空間
〇チームティーチング−弾力的な集団編成、複数の教師の目で子どもをみつめる
@ 子どもたちを前に、教師が教育方法を自由に発想できる教育空間−広さ、ヒント性
A 教師の協力関係を進める、開かれた空間
B コンピュータ・マルチメディアを授業の流れの中で随時活用できるメディアスペース
〇学習スタイルを子どもが選べる−時間、場所、仲間、教材、テーマ
@ 学習の手引や様々な学習材(図書、コンピュータ、プリント、具体物等)の用意された環境
 A 学習材・作品等により教科の魅力を伝え、学習への動機付けが図れる環境
 B 多様な学習形態を可能にする家具−机・テーブル、移動教材棚、ついたて等
 C 総合的な学習に対応する環境−多目的スペース、生活科スペース、屋外スペース
○運営方式の検討(中学校)
@ 教科センター方式―教科担任制の下でのチームティーチング、学習環境整備
A 学校生活全体を見直す−居場所、移動、交流
3.情報環境の拡充・整備
@ コンピュータを教える教室から、コンピュータを活用したワークスペースへ
A どこでもどの教科でもコンピュータが使える学校づくり−教室まわりへの分散配置
B 図書館のメディアセンター化
C インターネット、CATV、地域・学校間ネットワークによる、情報の収集・発信、交流
D 教務・校務、施設管理(安全・省エネルギー等)の情報化
4.図書館を中心とする学校づくり
@ 図書館は読書センター 読書の楽しさ、喜びを伝える場
A 図書館は学習センター 情報活用能力を育て主体的な学びを支える場、総合的学習
B 図書館は情報センター コンピュータ・視聴覚と一体のメディアセンター
C 図書館は交流センター 教室とは違う雰囲気のリラックスでき、交流の生まれる場
D 図書館は教材センター 多様な教材・資料・機器を一括管理する
E 図書館は子どもセンター 放課後や休日に子どもたちに開かれた居場所
F 地域の図書館ネットワークとのリンク
5.職員室から校務センターへ−管理諸室の再構成
@ 機能的なインテリジェントオフィスへ−大部屋職員室の見直し、OA・通信
(1) 教材研究・カリキュラム管理・製作環境の充実
(2) 教頭コーナー、会議室、小会議室、応接
(3) 管理・運営の効率化、情報化
A ストレスを和らげリフレッシュできる場−ラウンジ、横になれる休憩室、喫煙コーナー?
B 教師と子どもたちの距離を近くする−開かれたスペース、相談コーナー
C 教室まわりの教師・教科ステーション−打合せ、教材管理、生徒の相談/学年・教材
D 皆で子どもを育て、学校を運営する−教員・事務・用務・養護・司書・‥
6.子どもの目の高さからの学校空間のとらえなおし
 @ 多様な気持ちのひだを受けとめ、いろいろな「居方」ができる空間・場所
  (1)いろいろな集まり方、発表ができる場−多目的スペース、ホール・講堂、和室
  (2)多様な交流空間−ホール、ラウンジ、カフェテリア、バルコニー・テラス
  (3)一人になれる場、隠れ家的空間−デン・アルコーブ・ロフト・お話スポット
 A 一つ一つの生活行為を大切に
  (1)明るく、利用しやすいトイレ(5Kからの脱却)、トイレは交流空間
  (2)交流や発表の場となる食事スペース、多様な食事の楽しみ方
  (3)大きな鏡のあるゆとりある手洗いコーナー
  (4)身長の違いを考慮したデザインのよい水飲み
  (5)明るい更衣スペース
  (6)変化のある移動空間−廊下、階段
B 屋内・屋外の連続性−中庭、自然、屋上
C 木材を活用した暖かみのある、健康的な空間
D 子どものスケール感
7.安全・安心・健康な学校
@ 学校施設の安全管理
(1) CPTED(環境設計による犯罪防止)−接近・侵入の制御、自然な監視、領域性
(2) 受付、名札−「ようこそ」空間で子どもを守るパートナーづくり
(3) 侵入された時の対策−通報システム、危機管理マニュアル
(4) 学校は地域が守る−地域の目が届く空間、人の意識の保持
A 保健室は心身の健康教育の拠点
(1) 健康情報発信の場−皆に意識される位置
(2) ゆとりあるスペース、落ち着いた雰囲気、快適な環境
B 心・身体・進路の相談空間
(1) 保健室・カウンセリング゙
(2) 相談室−心の教室、適応教室、進路相談室
C シックハウス(揮発性化学物質)症候群対策
(1) 材料の選択、施工管理
(2) 換気設備・通風

D 耐震補強
(1) 既存施設の補強
(2)機能改善、改修・改造
E 快適環境
(1) 自然通風・採光・日照調整、空調・「涼房」 
8. 地域に開かれ、連携する学校
 @ 学校開放
   (1)生涯学習の場
(2) 子どもの遊び場・居場所
(3) 学社連携、学地連携
A 居住環境整備と学校
(1) 複合化−福祉施設−高齢者・学童保育施設との複合化
   (2) 安心して働ける、安心して年老いることのできる地域づくりの拠点
   (3) 世代間交流、生きがいづくり
 B 地域との交流、地域に支えられる学校
(1) 地域の活動拠点−PTA・ボランティア・住民ホームベース
(2) 地域の教育力−ゲストティーチャー、地域が教育の場
(3) 学校から地域への情報発信
 C 学校周辺の環境向上
 (1) 地域のシンボルとなる形、空間、景観への寄与
   (2) 学校周辺の環境向上−通学路の安全確保、四季が感じられる空間
D 誰にでも優しく、誰をも受け入れる学校−バリアフリーな施設・環境
 E 地域の防災拠点−備蓄庫・水の継承 
F 地域を守り育てる学校づくり−地産地消、里山の保全、建設技術の継承の機会
9.エコ・スクール−地球環境に優しい学校
 @ 省エネルギー−快適環境の実現、ビルディングオートメーション
 A 新エネルギー−太陽熱利用、太陽光発電、風力発電等
 B 自然環境−ビオトープ、緑化−樹木、芝生、原っぱ
 C 環境教育の教材としての施設づくり、ISO14001
 D 長寿命化、自然素材・循環材料、エイジング、廃材の活用
10.特色ある学校、誇りのもてる学校づくり
 @ 個別の計画−学校種別、地域性、敷地、学校規模
 A 思い出を継承する場
  (1) 学校の歴史・伝統、地域の文化の継承
(1) 卒業生・地域住民の思い出を残す−学校、雰囲気、物
 B 参加による計画・設計プロセス−教師、職員、地域住民、設計者、計画専門家
   (1) それぞれの夢・思いを語り合う学校教職員と話し合う計画・設計プロセス
   (2) 子どもたちの計画、建設への参加
(2) 保護者・地域住民・市民の参加
 C 自分たちの学校−誇りを育て、未来に向けて、大事に語り継がれる学校づくり
高松・夢がふくらむ学校づくり講演会
04/3/6

子どもの成長の場となる学校づくり

                         長澤 悟(東洋大学工学部教授) 

 イギリス首相だったチャーチルに「人が建築をつくる、建築が人をつくる」という言葉がある。気持ち、活動、互いの関係等の点で、人は意識する、しないに関わらず建築・空間から大きな影響を受けている。同じイギリスの、社会のリーダー的地位に立つ人材を輩出してきたパブリックスクールで長く校長を務めた人の言葉として、「リーダーたる者は気品を備えていなければならない。気品ある人間を育てるための要件として衣食住について言えば、着るものは簡素でよい、食べるものは質素でよい、しかし空間だけは豊かでなければならない」という言葉がある。いずれも学校建築を考える時の基本に据えられるものであろう。
 翻って我が国では学校施設については、教職員や教育学者等、教育関係者から教育条件として意識されることが一般に少ない。施設は与えられるもので、その姿と言えば、明治の中頃以降定型化が進んだ「四間×五間」の教室に特別教室等が足されただけのものであった。戦後の鉄筋コンクリート造校舎の標準設計は、それを貧しい空間として定着させた。意見を求められることも取り入れられることもなく建設される状況が、教職員の意識を施設に向けさせなかったということもできる。
○センチュリースクール・百年学校
 その学校建築がこの二十年余りの間に大きく変わってきた。そして教育も新しい波の中にある。当初はどちらかというと建築が先行気味で、順序が逆だという批判も見られた。しかし、社会の変化とは様々な立場から考えられ、進められるものであり、それが必要とされるはずだ。建築は造られたら数十年は使い続けられる。そして児童生徒の成長に、また教職員の教育活動に制約も与えれば、新しい可能性を生み出すことにもつながる。建築の計画・設計には先見性と、変化への柔軟性が求められるのである。
 具合が悪くなったらその時には建て替えればよいという考え方が従来あったとすれば、今後はそれは許されない。まず財政的に困難であろうし、地球環境問題から見ても、建設には膨大なエネルギーを要し、壊せば大量の産業廃棄物となる。一旦造るからには長く使い続けられるようにすることが不可欠だ。何より、学校とはそこで成長した子どもたち、地域の人々にとって思い出の集積した存在として、住宅と双璧をなすものである。機能的に古びたからといって簡単に建て替えてよい性質のものではない。
 余談だが、以前からどうしても一度訪れたいと思い、最近、念願を果たした場所がある。それはオランダのライデン大学の一角にある、教室半分位の広さの部屋である。そこは壁全面が落書きで埋まっている。この大学で学んだ人間は、一度だけここに落書きを残すことができる。先のチャーチルやアインシュタイン等の名前も見える。ここに落書きを残すことがこの大学で学んだ証として意識され、誇りとなっているという。場とはそのような力を持つものなのである。
 校舎改築の計画に関わった時に、話し合いの中で必ず意見を聞くようにしているのが、思い出の場所、学校で残したいものについてである。旧木造校舎の床板、階段の親柱や手すり等、新しい校舎にさりげなく取り入れたものが、それを見つけた卒業生を感激させる場面を見てきた。これらは個人的な思い出を越えて、そこで学び、育ち、関わった人々の心をつなぐ。学校とは単に今の教育の場としての存在にとどまらず、お父さんも、おじいさんもここで勉強した。ひいおじいさんは学校をつくったというようにして世代間を結ぶ力を持つ。これに対して、戦後の鉄筋コンクリート造校舎は平均して30年程で建て替えられてきた。一世代分の寿命しかない建物にこの役割は果たせない。
 皆に愛されながら永く時間を生きる学校づくりを、センチュリースクール・百年学校と呼んで、様々な課題を統合した学校づくりの最終の目標として、話し合いに参加した人々に投げかけている。そのためにどうするかということは、まさに総合的な学習の課題である。構造、設備、機能、材料、維持管理等、全般にわたるが、最後は人の心、愛着にある。壊すか、残すかは人が決めるのだ。そしてそのような人の心は何によって作られるかと言えば、人々が参加する建設プロセスであると思う。「おらが学校」という言葉は「おらが造った学校」「おらが支える学校」なのだ。明治以来、戦後しばらく経ってから学校建設の補助制度が整うまで、学校づくりは常に地域の人々の汗と苦労に支えられてきた。戦後の寿命の短い標準校舎はその関係を断ち切って生まれたものだった。学校の本来のあり方を取り戻そう。そのためには昔のように金や労力ではなく、その代わりに一番大事なもの、つまり時間を出し合おう。時間をかけて、子どもを、教育を、学校を、地域を考えながら学校をつくろう。むしろ学校づくりをそれらを考える機会として生かすことが大切だ。
○新しい教育空間
 今日、ゆとりか学力かが大きな論争になっている。興味深いが、本来はどちらも大切な教育目標のはずである。限られた学校時間の中でどちらを優先するかという議論は何か虚しい気持ちもする。
 ただし、学校建築に話を戻せば、実はゆとりも学力も教育空間については同じように変革を求めるものと言える。ゆとりを生かした多様な活動も、一人一人に確実に学力の定着を図るための弾力的な学習展開も、いずれも一斉画一授業とは異なるはずだし、それを前提とした固定的、画一的な教室の構成・配置で対応するには制約が大きいはずだ。そのための教育空間・学習空間が備えるべき基本的条件として、大きく次の三つをあげることができる。
 一つは教職員が協力しやすい空間づくりである。教育実践に成果を挙げる多くの学校の様子を見てきて思うのは、教師が集団となった時のパワーのすごさである。学校づくりを契機として、教育について、学校のあり方について賛否両論を含めて幅広く議論することを通して、施設の完成後、学校全体が共通理解のもとに教育に取り組むようになる。そこですばらしい教育実践を展開しているのは、特別に集められた教師ではなく「普通の教師達」なのである。学校教育の変革は一人の教師ではなく、学校が組織として取り組んで実現するものだと実感している。また、学習場面だけではなく、子どもの多面的な理解や評価のためにも、複数の教職員の多様な個性・視点をもってあたることが必要とされよう。そして、そのような学校変革が従来の学校でなぜ難しかったかと言えば、教室の壁が教師の間に意識の壁を作り、弾力的な場面を許さずにきたためであると言える。
 新しい教育に取り組もうとしている小学校から、まず教室と廊下のドアや窓を外してみようと計画していると相談されたことがある。学年のまとまりは確保されていたが、なにしろ廊下の幅しかないのでは間仕切りのないことの問題点ばかりが意識されるだけに終わりはしないかと心配していたところ、しばらくして大変よかったという報告を受けた。何がよかったのかと聞けば、教師の関係や意識が開かれ、子どもどうしの関係が変わった。それを通して一緒に子どもの教育にあたろうとする機運ができたということだった。この学校ではその後改造により廊下側の間仕切りを撤去し、コーナーづくりに先生方のアイデアの盛り込まれた教育空間が実現し、協同体制の下、次のステップに進んで行った。
 学級王国という言葉があり、教師は閉鎖的と言われる。実際、計画の話し合いの際にもそれまでの経験から、閉じた教室に固執するような意見が出されるが、プロセスも含めよく計画された空間の中では、教師達はごく自然に協力し始める。
 二つめが、多様な学習メディア、すなわちプリント類・図書・視聴覚機器・コンピュータ・インターネット情報・子どもたちの成果物・実物等が、教室の身近に用意された空間づくりである。より魅力的な授業を可能にし、一人一人の学びを支え、学習への動機付けを図るためには、これら多様なメディアが不可欠である。そして、授業の流れの中で随時利用できるように、教室まわりに用意されていることが大切である。そのような学習環境構成は、教師が協力しあう時、一層ダイナミックで新鮮なものになる。
 三つめは能動的に活動できる空間づくりである。学習メディアが用意された環境はそのためにも有効であり、子どもたちに学習への動機付け、問題意識、学習課題への期待を育てることになる。しかも子どもたちはその環境を整えているのが自分たちの先生であることを知っている。先生が自分のためにしてくれていることを環境を通して感じることができる。それは先生と子どもの心を結ぶメディアでもある。
 近年、中学校では新しい計画として教科教室型運営方式が注目されている。教科ごとに専用の教室を設け、生徒が移動する方式であるが、上記の趣旨に照らして言えば、教科教室、教科や関連教科のメディアを配置したオープンスペース(メディアスペース)、教材室や教科研究室等を組み合わせて教科センターを構成することが大切である。その意味で教科センター方式とも呼ばれる。教科担任制の下で教師が協力して授業展開やメディア配置ができ、生徒に教科の魅力を感じさせられるところに意義がある。この方式の検討段階において先生方から必ず出される意見として、教科指導上の有効性は分かるが、教室移動があると生徒が落ち着かないのでは、授業に遅れてくるのではという心配や、クラスのまとまりが崩れるという反対があがる。ところが、実際には教室の移動は評価される場合が多い。つまり、自ら教室に出向くという行動を通して気持ちが切り替わり、教室で先生が来るのを待っている受け身の姿勢とは違うというのである。これらの学校ではノーチャイム制がとられることが多いが、生徒が授業に遅れて来ることもない。もちろんその前提として、各教科の教室やオープンスペースに教科の環境が用意されていることが不可欠である。それがなければ、なぜ自分達が移動しなければならないのか、生徒達にはその意味が見出せない。変化のある移動空間のデザインや学校規模に応じた動線計画等が大切なことも付け加えておきたい。
○ストレスのない学校づくり
 学校は、子ども達が授業を受けるだけでなく、様々な気持ちを持って過ごす生活の場でもある。学校ではうれしいこともあれば、気がふさぐ時もあるだろう。一人でいたい時もあれば、友達となぐさめあうことも、大勢で楽しくおしゃべりしたいこともある。その気持ちや行為を子ども達の目線から思いやることから新しい学校空間が見えてくる。従来の学校には教室しか居場所がなかった。人間関係等で教室の中に入りづらくなるとこれは不登校の原因との一つとなろう。学校はその時々にあった自分の居場所が見つけられ、選べるような空間づくりをしたい。例えば学校全体を移動するながで各人が生活を組み立てることになる教科センター方式の学校では、不登校が減ったという報告もある。空間が開かれ、のびやかで、明るいことは、子ども達がストレスなく学校生活を送る上で不可欠の条件と言える。
 一方、安心感の持てる、まわりの目から外れてほっとできる居場所も大切だ。オープンスペースの一角に、穴蔵のような狭い場所(デン)を設けたところ、子ども達に大人気の場所となった。まわりが活発に遊んでいる時、中をのぞくと二、三人で静かにおしゃべりしていたり、逆にこの中だけはキャッキャと遊んでいたりする。デンはそれを目にした大人たちも興味を持つ。イギリスの小学校には教室の一角に3m角程の小さなコーナーがある。床に座れば全員が集まることができ、先生も話したり、本を読んだりするのに小さな声で十分である。そして小さな声で話す先生を子ども達はやさしいと感じるのである。
 学校を生活という視点から見れば、食事、水飲み、トイレ、更衣等、様々な生活行為を本来のあり方からしっかりとらえ直して空間づくりに反映することが大切である。学校トイレが今大きな課題となっている。
 先に保健室登校にふれた。何とか学校に来る子ども達は大人としゃべりたいという気持ちを持っている。しかしそれは自分を管理する立場の教師ではだめだという時に、悩みを受け止めてくれる養護教諭がいる場所が保健室ということになる。実際、図書室に司書がいる学校では図書室登校があるし、事務室登校もある。規模の大きな学校で数が多くなると保健室では足りず、かといってどこかの教室に集めるわけにもいかないので、倉庫や教材室等、様々な場所があてられ、教室外登校ということになり、貧しい環境に置かれている場合も少なくない。身体の障害に対するバリアフリーに対する意識はずいぶん定着してきたが、心の面のバリアフリーはまだこれからと言える。学校空間全体の見直しとともに、地域の大人の関わりも期待される。
 子どもを大事にする学校づくりで大切なことは何かと話し合っていた時、ある先生から「教師がストレスない状態でいられることが大切」と言われて、一瞬後に皆で納得したことがある。余裕のない学校の空間・時間の中で先生もストレスを感じている。それが子どもに跳ね返らないようにしたい。職員室の一角にラウンジやサロンを設ければ、リフレッシュに有効なだけでなく、机に向かっている時や会議の時とはまた別の情報交換にも有効であろう。体調のすぐれない時に横になれる場所一つない学校は問題だろう。
○地域に開かれ、地域と連携する学校
 学校週五日制が論議の的となっている。本来それは子どもを育てることを学校だけのこととせず、家庭と地域が連携して担っていこうということだととらえられる。今はそれを受け止める場や人的環境が整うまでの過渡期の議論と言えばよいのだろうか。地域の空間や人材を生かし、人や自然との交流、体験のプログラムを用意して、学校の枠の中では困難な優れた試みが現れていることには期待できる。
 学校と地域との関係については、学校施設を地域の活動や生涯学習の場として活用する学校開放から、社会教育施設さらには福祉施設との複合化やそれへの余裕教室の転用等が広く見られるようになってきた。まちづくり・地域づくりの目標は、生きがいをもって安心して住み続けられる居住環境整備である。学校はその主要な一部ととらえられ、その施設や存在を豊かな地域づくりに活かし、有機的に関連づけることは当然の課題とも言える。その際大切なことは、施設を別個に整備するのでは期待しにくい価値を目標に据えることである。単独では持てない施設を利用できるようにすることと同時に、交流がキーワードとなろう。子ども達にとっては、幅広く大人とふれあい、また高齢者や障害のある人との関わりを持つ機会として生かす発想が求められる。また、地域の人材を招き入れることは、地域のよさを伝え、誇りを持てる教育にも欠かせない。こういう機会を通して地域の人々が学校や子どもに関心を深めることが、すなわち地域の教育力につながると言えよう。保護者や地域の人々を日常的に迎え入れる場、学校をサポートする拠点を学校の一角に設けることも学校施設計画の課題と言える。近年は、放課後や休日の子どもの居場所として学校施設を生かすことが広がりを見せているが、遊び指導や安全管理にも地域の人々の協力は不可欠となる。
 開かれた学校という言い方が改めて問題とされたのが大阪の池田小学校での痛ましい事件だった。開かれた学校とは、安全について何の用意もなく、意識も薄いまま学校空間を開くことを意味するものではないことは新たに確認する必要がある。安全で健康な学校環境づくりは学校施設計画のすべての基本になることは言うまでもない。知恵と工夫が求められるのは、学校づくりの目標を見据えながらその確保を図るところにある。常時の学校と地域との関係はそのベースとなるものであろう。
○理念をもって、思いをこめて
 多様な教育活動の場として昭和50年代から設置されるようになったオープンスペースは、昭和59年度に補助制度ができてから急速に数を増し、今では6千校程に達しているが、しばらく前からその定型化が問題とされるようになってきた。補助があるからというだけで、議論もなされない中で造られた空間はねらい通りには生かされない。うまく使われていない例がまわりにあることが、逆に疑問を生じさせている状況も見受けられる。なぜ変えなければいけないのかと。
 学校づくりに必要なのは、先ず、誰のための学校づくりなのか、「学校とは」という問いを皆が持ち、それぞれの立場から考えることである。問われるのは、子ども観、教育観、学校観である。一人ひとりの子どもが学ぶ楽しさ、生きる喜びを実感でき、自分に自信を持ち、誇りの持てる学校づくりを、それぞれの条件に応じてそれぞれの言葉で理念・目標として立てることが大切である。
 もう一つは、それを作り、共有する場として学校の教職員、保護者、地域の人々、子ども達が参加しながら思いを込めるプロセスが不可欠だということである。学校づくりへの参加の特長は、まちづくりや他の施設づくりの場合と違って、参加した人々が、最初から誰でも沢山のことがしゃべれることである。全員が9年、12年という経験があり、「誰でもプロ」なのだし、自分の人生に裏打ちされた教育論は誰でも持っている。しかも数年後には成果となって現れる。「おらが造った学校」はまさに地域の人々の元気の素となり、そこから学校教育、子育てのサポーターが生まれてくる。
 もちろん時間、労力はかかる。しかし、それが百年学校への唯一の道なのである。
(学校保健研究 第44巻 第6号2003.2.20)